ゲランの香水物語は アクア アレゴリアと共に新章へ
13 May 2022
A Scent of A Scene
香りに閉じ込められた、いくつかのシーンについて。
燦々と降りそそぐ白っぽい夏のひかりに匂いがあるとしたら、きっとこんな感じ。 まばゆく煌めくのは、豊かな土地で大きな愛に育まれたネロリ。 爽やかなバジルと美味しそうなイチジクが添えられて、 アロマティックなベチバーが根底を支える。やわらかくて、やさしくて、寛大で、前向き。 このひかりはきっと、わたしたちの未来を照らす道しるべとなる。 私たちを導く、希望のひかりの香り。
Name : NEROLIA VETIVER
Brand : GUERLAIN
year : 2022
perfumer : Thierry Wasser, Delphine Jelk
type : EAU DE TOILETTE
notes : Bergamot, Basil, Petitgrain, Fig accord, Neroli, Rose, Orange blossom, Vetiver, White musk
1828 年にフレグランスメゾンとしてフランスで創業したゲラン。194 年という長い歴史の中で、この世に命を授けられたフレグランスはなんと1,100種類以上という目も眩むほどの数。ゲランの由緒ある香水物語に、『アクア アレゴリア』の章が加わったのは 1999 年のこと。天然由来の素材とその香りを最大限に引き出すことで、自然の素晴らしさを称えるこの寓話(=アレゴリー)は、フレグランスに精通した人々の興味を集めるのはもちろんのこと、初めて香りの物語に触れようとする人々の入り口ともなりうる。豊かで高尚なゲラン歴代の香りより、軽やかでコロンのように親しみやすいコレクションは、世界中の美しい庭園のようすを描いたもの。時に、咲きたてのバラに囲まれたり、朝露に濡れた草の上を歩いてみたり、次々に実る果実を摘みとってみたり……。肌にひと吹きすれば、そんなワンシーンが目の前に浮かぶようだ。また、このコレクションからいくつかを選び出しレイヤードする、ミクソロジーも楽しみ方のひとつ。同じ部位にいくつかの香りを重ねるのではなく、手首と足首、肌と洋服といった具合に、異なる部位に異なる香りを纏い、空間で香りの重なりを楽しむことによって、ひとつひとつのフレグランスの完成度を崩すことなく、ゲランの庭園を自分だけオリジナルな庭へと変化させることができる。シーンを選ばず、セオリーにとらわれすぎず、 水のように軽やかでフレッシュなコレクションだ。
今年、このアクア アレゴリア コレクションはメゾンの信念と共鳴すべく、革新的に生まれ変わることとなった。もともとゲランは、近年のようにサステナブルという言葉がなじむよりもずっと前から、地球もわたしたちも労わるナチュラル処方や、持続可能な製品づくりにこだわりを持っていた。約200年の歴史があるブランドだからこそ、さらに後世100 年にまで思いを馳せて行動するのは、当然のことなのである。その 潮流で、フレグランス分野も次のステージへ押し上げられるのもまた当然のこと。自然を賛美するアクア アレゴリアは、自然を守り、保護することを約束し、メ ゾンのサステナブルな革新を象徴するラインとなる。
革命のひとつめは、最大95%の天然由来成分を配合したナチュラルフォーミュラ。しかも使用されるアルコールは、ビーツ由来のオーガニックアルコールのみとなった。5代目調香師のティエリー・ワッサーは、 ビーツの生産者たちにこの取り組みへの理解と協力を得ることに尽力した。長いフレグランスの歴史の中で、 天然香料の生産者を尊重し、信頼関係を築いてきたゲランだからこそ実現した取り組みなのである。革命のふたつめは、ボトルをエコデザインの観点から再開発したこと。170 年前にナポレオン3世の婚礼を祝し、皇后ユージェニーに贈られたビー ボトルをオマージュしたアイコニックなボトルは、光沢や透明性を損なうことなく15%のリサイクルガラスを使用し、その全製造工程がフランス国内で行われている。そしてこのひとつのボトルを長く愛することができるように、リフィルも誕生。自らで充填できるリフィルボトルは、エコであり、自分と香りが永くともに在るための新たな選択肢となるはずだ。
アップデートされたコレクションのなかで、サステナブルを追求する代表的存在になることを期待されるの が『ネロリア ベチバー』だ。ゲルリナーデと呼ばれる、 ゲランが愛してやまない6つの天然香料のうち、数々のクリエイションを特徴づけてきたベルガモット。ベルガモットの生産地・南イタリアのカラブリアを敬愛し、そこで育つカラブリアンネロリに惚れ込んだティエリーともうひとりの調香師デルフィーヌ・ジェルクがこの新しい香りを生み出した。豊かなネロリを育むカラブリアの風景と人々の暮らしを描き、その煌めきを惜しみなく表現する作品。そして、それが後世へ続くよう尽力すると宣言する存在でもあるのだ。
Photography KENICHI SUGIMORI
Edit & Text TOKO TOGASHI
こちらの情報は『CYAN ISSUE 33』に掲載されたものを再編集したものです。