オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー 未知なる香りに魅せられて

A Scent of A Scene

香りに閉じ込められた、いくつかのシーンについて。

アーモンドみたいに美味しそうで贅沢な香り。まるでフィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』に描かれる晩餐会みたいにロマンチックでゴージャスで、そしてどこか少しだけ危うい。ギャツビーとデイジーが再会したとき、そこには白い花々のきらめくような香りが漂っていたのかもしれないと想像する。耽美なひとときを記憶している。

Name : Eau Triple Héliotrope du Pérou
Brand : Officine Universelle Buly
type : Water Based Perfume
notes : White Flowers, Tonka Bean, Violet Accords

 1803年、フランスはパリ、サントノレ通りに誕生した総合美容専門店(薬局)にルーツを持つオフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー。オーナーは、“香水の魔術師”として当時すでに知られていたジャン=ヴァンサン・ビュリーで、フランス界隈で香水が流行していた1800年代に、香水の製造過程における技術と品質を格段に進歩させた。また、彼は有名調香師として、世界中の珍しい花々を集めてはその香料でユニークな香水を次々に生み出した。しかし、香水の魔術師も1830年にはオーナーとしての身を引くこととなり、その後1960年代までブティックは存在していたそうだが、そこから50年以上沈黙することとなる。転機は2014年。ジャン=ヴァンサン・ビュリーの数奇な運命に惹かれたラムダン・トゥアミとヴィクトワール・ドゥ・タイヤック夫妻によって、オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーは現在の姿に生まれ変わった。今ではフランスの香水黄金期を体現しながら、革新的なプロダクトによって未知なる美容の世界へと誘うブランドとして、世界中で愛されている。

 伝統を踏襲しながらも、他ブランドにないユニークな商品を開発するオフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー。そのなかでもオー・トリプルは、ブランドを代表する存在だ。オー・トリプルは、世界でも類を見ない独自の水性ベースの香水。通常の香水の主成分ともなるアルコールやエタノールを一切使用していない。スプレーすると、乳液状のリキッドがとても繊細で細かいミストとなってふんわりと広がり、肌にしっとりと落ち着く。また、髪の毛にも使用することができるため、シチュエーションを問わずに自分の香りを纏うことができる。アルコール不使用、保湿成分配合のため、肌を乾燥させることもなく、心も身体も豊かにうるおすような香水である。素材本来の香りに忠実であり、素肌に自然の香りを封じ込めたかのように深く優雅に香り立つ。とても親密で永続的でありながら、無理な主張をすることなく、香りの悦びを与えてくれるのだ。

オー・トリプル(ヘリオトロープ・デュ・ペルー) 75ml ¥20,350 (Officine Universelle Buly)

 オパールガラスの重厚感あるボトルに、香りのモチーフがデザインされたゴールドラベルを授けられたオー・トリプル。アンティーク調のその佇まいには、アートピースとしても惚れ惚れしてしまう。ヘリオトロープ・デュ・ペルー、明るさと華やかさの代名詞ともいえるこの香りは、パリ・コンコルド広場にある伝説的なホテル・クリヨンのシグネチャーの香りとしてホテル全体を包んでいるという。やわらかいパウダリーな白い花々とスミレの香りのつぶが、きらきらと光り輝きながら肌に着地するようで、まずはその快楽に存分に浸る。全体を悠々と支えるウッディノート。輝きとロマンスを引き立てるバニラ。スパイシーなエッセンスとしての鍵を握るサンダルウッドとトンカビーンズは、どこか危うく、その妖しさに知らず知らずに魅了されている。この香りの名前にもなったヘリオトロープは、甘い香りを放つ花のこと。その濃密な芳香に相応しく、花言葉には「献身的な愛」「熱望」といったものがあるらしい。古くから香水や石鹸の香料として重宝され、香水草といかにもな和名も持ち合わせている。ただ、ベタつくようないやらしさはなく、どちらかといえばアーモンドのような爽やかな甘さ。どこか色気を秘めながらも華やかで快活な香りは、ジェンダーや年齢を問わずに素肌をエレガントに包み込んでくれるようだ。

 太陽のまばゆさや、『グレート・ギャツビー』の晩餐会のような星明かりの下にももちろん相応しい。しかし、鼻をくすぐるようなパウダリーさや、軽やかで媚びない甘さは秋冬のどんどん冷たく乾いていく季節においても、たしかなあたたかさをもたらす香水として、ぴたりと似合う気がしている。肌の上で、ひとときの幸福を記憶していく香り。


Photography : KENICHI SUGIMORI
Edit & Text : TOKO TOGASHI

こちらの情報は『CYAN ISSUE 34』に掲載されたものを再編集したものです。