アオイヤマダ “表現すること”の先にみる景色

『CYAN ISSUE 40 S/S 2024』の表紙を飾ったアオイヤマダへインタビュー。


晴天ながらも春一番の吹き荒れたこの日。撮影現場はまさに彼女のステージだった。春の訪れを祝うような華やかなドレスで舞う、表現者・アオイヤマダ。彼女がカメラの前に立つと、誰もが目を奪われる。

「風が強くて最初はどうなるかと思ったけど、みなさんで物語を紡ぐように作品づくりができて楽しかったです。ピンクのワンピースのルックは、体にフィットした瞬間もあれば、風を含んだものもあって。花に見えたり、海藻に見えたり、いろんなものに見えて楽しかったです」。

表現をしやすいとは言い難い環境であったが、突風さえ味方にして彼女は軽やかに語る。

「もともと風を感じながら踊ることは意識しています。風の粒子、空気の粒子が体に当たる感覚。そういうリアルな感覚をいつも大切にしています」。

きっと常にあらゆるものの声と対話しながら踊っているのだろう。アオイヤマダにしかなし得ない撮影であった。

アオイヤマダといえば、東京五輪の閉会式でのパフォーマンス、あるいは、Netflixのドラマ『First Love 初恋』の古森 詩役を記憶している人も多いのではないだろうか。最近では、映画『PERFECT DAYS』のアヤ役でも国内外から注目を集めた。ダンサー、モデル、俳優、振付師……といくつもの顔があるが、彼女を言い表すにはそのどれもがひとつでは足りない。

「ダンスを始めたのは、母に勧められて幼少期に連れていってもらったのがきっかけです。当時は、『ダンスをしている』っていう感覚よりも、『自己が確立された』という感覚でした。踊るようになったことで、意識と体が一致した感覚がありました。本格的に自分のスタイルを見つけようと思ったのは高校生の頃。15歳の時に長野県から東京に上京してダンスの高校に通っていたんですが、高校2年生の時に山口小夜子さんの存在を知ってから、ファッションとヘアメイクとダンスっていうものが総合的にできる芸術があるんだと気づき、それから今みたいな踊りのスタイルに変わっていきました」。

表現者として唯一無二のスタイルを確立している彼女は、自身の個性をどう解釈しているのか。

「アオイちゃんって個性強いよねって昔から言われるのですが、自分から強くしようとしたことはなかったんです。自分が好きなものをみんなに伝えたくてやってきたのが今につながっている。コロナ禍にはじめた野菜ダンスもそうですね。思えば、自分で生み出せる新しいものってすごく少ないなと感じるんです。パッと閃いたことも、それはすでにこの世界に大抵あるもの。だからこそ古いものや歴史、伝統とか、昔からあるものに対してすごく興味が湧くし、取り込んで咀嚼したい。そんな自分から出たものが、新しく見えるってことなのかなと思います。今は、奈良の東大寺で1200年以上続いている『お水取り』に興味があって。春の訪れを告げる行事らしいのですが、私もまだよく知らないので、それがどんなものなのか見に行きたいなと思っています。初めてのものは見ること自体がインスピレーションの塊です」。

スタイルを形作るものは見た目だけではない。思考や人生を通して浮き彫りになるパーソナリティ。個々に内包されたすべての要素から、〝個性〟がかたどられていくのだ。

あらゆる分野で挑戦を続ける彼女は、何のために表現をし続けるのだろうか。

「『誰かのためになっているか』という問いかけは常に自分のなかにあります。好きなことでもやりたくないときはどうしたってある。そういうときに自分のためだけにやっているとつらくなってしまう。少しでも誰かの何かのきっかけになりたい、助けになりたいという思いでやっていると、実際喜んでくれた人が目の前にいたときに、やっている意味や生きている意味を見つけ出せる。誰かのためって、おこがましいけど、あると続けられる。だからSNSのメッセージや街で声をかけてくださることは、とても励みになります。あとは『やらされてる』とならないように、自主的にやりたいって思えるような環境をつくることが大事だと思います。私はほぼ毎日、旦那さんにお弁当を作っているのですが、それも作りたいって思うから続けていること。料理は頭のなかが整理されて無心になれるので、私にとって瞑想のような大切な時間。毎日作り続けるということが大事になっています」。

自身のあり方を見失わず時代の先頭を進む姿は、今を生きる私たちの道標たり得るだろう。

「私は15歳の時に『何者かにならなきゃ』っていう気持ちで上京してきたので、前ばかり見てあまり振り返ることがなかったんです。でも焦って進んでいると、壁にぶつかるときもあるんですよね。『本当に何者かになれるんだろうか』って。だから私の経験から言えるとしたら、足元の新芽を大切にしてほしい、ということです。ふと後ろや足元を見たときに、身の回りの大切な人たちに意識を届けられているかなって。都度立ち止まって、反省して、というのを今は繰り返しています。踊っていない私も、表に出ていない自分も、必要としてくれる存在がいるって感じられる時間。これこそ大切なものだなと思います。とにかく目の前のことを大切にすれば大丈夫。そうすれば、やりたいことは自然と出てくると思います」。

アオイヤマダ

2000年生まれ。長野県出身。表現者として活動。東京2020オリンピックの閉会式ではソロパフォーマンスを披露。ダンサー、モデル、俳優としてだけでなく、楽曲制作、MC、振付師など、幅広い分野で活動の場を広げる。


Photography: YUYA SHIMAHARA (UM)
Hair & Makeup: AYA MURAKAMI
Styling: KAZUHIDE UMEDA
Model: AOI YAMADA
Edit & Text: YUKA ENOMOTO, ARISA SATO

こちらの情報は『CYAN ISSUE 40 S/S 2024』に掲載された内容を再編集したものです。