光と記憶の“きらめき”をとらえる写真家・石田真澄がシャッターを切り続ける理由 後編
19 May 2024
記憶を辿り自らの言葉で語る。クリエイターのこれまでとこれから。
写真家・石田真澄さんにインタビュー。写真との出会いから、“仕事”として歩むことを決めた瞬間、今日までシャッターを切り続けてきた理由を深掘りした。そのほか、一瞬一瞬を大切にする石田さんだからこその信念と心配りが感じられる内容を前後編に分けてたっぷりお届け。前編はこちらから。
誰もが対等な立場でいられる風通しの良い現場がいい
無防備で隙のある表情をしている。石田さんが撮った写真の中にいる人物を見た時にそう思った。
「仕事だと初対面なことがほとんどなので、自分がどこまで近寄っていいか、被写体の方との距離感はすごく気にします。挨拶をさせてもらう時や、メイクさんやマネージャーさんと会話している様子を見て、話した方が打ち解けられる方なのか、ある程度の距離があった方がいい方か、その人に合った距離感を探るようにしています。あと、なるべく会話に入ってもらうようにしています。隠すべき会話もあるとは思うのですが、オープンにしてもいい話はできるだけ伝えておきたいのです。例えば衣装について。私たちはこれがいいと思ったんですけど、どうですか?みたいな。他の衣装はなぜ選ばなかったのかとか、もし着たくない衣装があれば聞きたいし。被写体の方だけ、置いてけぼりになっている感じが嫌なんですよね。同じ現場にいるのに、何かが勝手に決まっているとか良くないと思う。こちらも変に気を遣っちゃうので。自分がフィルムで撮っていることも大きな理由だと思います。デジタルで撮影していれば、モニターに映して被写体の方も確認できますが、フィルム撮影の場合、撮った写真をすぐに確認することはできません。そうすると、撮影に慣れてる方でも“はじめまして同士”でさらにフィルムだと『どう撮られてるんだろう』って感じると思うんです。だから、撮影以外の不安は極力取り払いたいなって。こういう理由でこの衣装にしたいですとか、メイクはこうがいいと思いますとか、ちゃんとお伝えしたうえで、あとは任せて撮らせてくださいっていう状態にしたいんです。人物だけじゃなく、物を撮るときもよく観察するようにしています。作り込むより、対象物を生活の中のありそうな所に置いて撮ることが多いです。その物がどこにあれば不自然じゃないか、なるべく想像を巡らせています。被写体がいかにドラマチックに見えるか。人物であれ物であれ撮影するときの意識としての共通点ですね」
若くして自身のスタイルを確立している石田さんだが、10代で写真家としてデビューしたからこその苦労も多い。
「そもそも師匠についた経験がないので、はじめの頃はわからないことばかりでした。経験値が少ないまま写真集を作ったり撮影したり。もちろんそういう恵まれた環境に感謝はしていますが、やっぱり何もわからないまま、やってみなくちゃいけなかったのは大変でした。だから、とにかくやってみて次に活かす、そればかりだったと思います。過去の現場の経験で、あの時こうしたからこんな感じかな?とか。ひとつひとつの経験を積み重ねて引き出しにしています。撮影で何かはまらないと感じたときは、なるべく場所を変えるようにしています。よくスタッフさんに『すごく動きますね』って言われるんですけど、どんどん撮って、どんどん動いて。遠くまでいくと気分転換になるし、自分の頭を冷やすためにも、場所はよく変えるようにしています」
仕事に対しても、人に対しても、プロフェッショナルで真摯な姿勢と、物事を深く感じとる感受性の豊かさが、写真家・石田真澄を形づくる。しかし、時に感動を素直に表現する、飾らない20代らしい素顔も見せてくれた。
「趣味は結構幅広くて、小説や漫画を読んだり、映画を観たり、バラエティー・ドラマ問わずテレビを観たり。カルチャーと呼ばれるものは全般的に好きです。最近観た映画で印象的だったのは、松村北斗さんと上白石萌音さんがW主演の『夜明けのすべて』。三宅唱監督が好きなんですけど『ケイコ 目を澄ませて』からたったの2年で、こんな作品が撮れるんだと。海外の作品も観ますが、日本映画の方が多いです。あとは友達と旅行に行くのも好きです。全く何の予定も入れない行き当たりばったりの旅も、きっちりと予定を立てる旅も、どちらも楽しめます。とくに初めての場所はワクワクします。知らない景色が見られることが嬉しいです。旅行中も写真は結構撮ります。フィルムはもちろんですが、結構スマホでも撮ります。同じものを撮っても、フィルムとスマホだと全然違うんですよね。この光はiPhoneで撮ったらどうなるんだろう?とか。その違いが面白い。今のスマホカメラはとても高性能だから、ひとつのカメラとして捉えて使っています。あと、スマホは縦長が特徴的なので、どう映るかな?とか、試してみたり。昔はもう少しフィルムで撮っていたのに、最近はスマホでも撮るようになっちゃったなぁって思うこともありますが(笑)、楽しいことがいちばんなので! 写真を撮るためにどこかへ行くことは、ほとんどありません。旅に出る目的はあくまで旅行。その記録として写真を撮るだけです」
写真は日々の記録 自分が忘れたくないから撮っている
雑誌から写真集、大手企業の広告をはじめトップメゾンからの撮影オファーも絶えない。あらためて石田さんにとって写真とは。
「写真を撮るのは自分のためです。仕事以外は日常の記録。自分が忘れたくないから撮っています。残したいって思うその瞬間を、テキストにしたり、絵に描く人もいると思うんですが、私にとって最適なのがカメラ。現代で、“この瞬間”を残すのに、写真がいちばん早くて的確だから。見たままを残せます。学生生活を撮り続けていたのも全く同じ理由です。目の前で笑っている友人たちとのこの日常にも終わりがあるからこそ今撮らないと、と思っていました。光が好きな理由にも通ずるところがあると思います。太陽が沈むと消えてしまったり、雲がかかると切れたりして。光のそういう刹那的なところに惹かれて撮っていました。今でも変わらずに光を撮ることが楽しいし、全く飽きることはありません。あと最近は、男性をもっと撮ってみたいと思い始めました。私はこれまでの人生で女性と関わることが圧倒的に多かったので、男性が何を考えているのかあまりわからないんです。中学から高校までの6年間、女子校育ちで思春期は女性だけ。交友関係も女の人が多いからこそ、女性のことは察しやすい。今撮らない方がいいかもとか、ちょっと嫌がってるかなとか、気を遣いすぎてしまうことがあります。その反面、男性には少し鈍感になれるというか、気にしすぎないでいられるような感覚があります。以前は関わってきた総数が少ないからこそ撮りづらいかなと思っていたのですが、もしかしたら逆かもと最近気がつきました」
多感な時期にカメラに出合い、自分にはこれだと思えることを見つけ、そしてそれを仕事にしていく。好きなことを職業にするうえで心がけていることは“楽しむこと”と教えてくれた。
「自分のことはちゃんと考えるようにしています。周りを気遣うことも大切ですが、なるべく自分も気持ちよく仕事したいなって。ストレスが溜まったときは、人に会えないし映画も観られないので、なるべくひとりで無心になれることをします。散歩したり料理をしたり。料理は作業的だし結果もあるので好きです。だいたいストレスを抱えてる時って忙しくて食事はお弁当ばかりだったり、野菜が摂れていなかったり、温かいものが食べられていなかったり。物理的に体を労る意味でも料理をすることが多い です。食後の洗い物までやりきると、スッキリします。終わったあとはラジオを聴いたりして」
真似して行動することは素晴らしいこと
スマートフォンやSNSの普及により、写真という存在がぐっと身近になった。本格的なカメラに憧れを抱きつつも、最初の一歩が踏み出せない人も多くいる。
「何かに憧れて真似をすることも必要だと思います。物事を始めるきっかけって、先にやっていた人がいると思うので。まずはその人の真似をしてみる。その先に自分らしさが出てるか、自分の視点でできてるか意識できると、いずれそれが自分の個性や強みになるんだと思います。スマホで撮った写真を見返してみるのも、自分を知るひとつの方法です。スマホのカメラは気軽に撮れるからこそ個性が出やすいんです。撮ることで満足して意外と撮ったきりになりがちですが、カメラロールを見返してみると、自分が好きなものの傾向が見えてくると思いますよ。友人と旅行に行くと、グループLINEでいろんな子が写真を追加するんです。これがすごく面白くて。同じ時間、同じ場所にいるのに、みんな全然違う写真を撮っている。食べ物ばかり撮影する子、景色ばかりを撮ってる子、好みや癖がかなり出ます。自分の好きなテイストを見つけるって難しい作業だと思いますが、それがわかるだけでも、カメラに対するハードルが少し下がるかもしれません」
無意識にシャッターを切っていると話すプライベートの旅行写真。いつかまとめて出版できたらと語った。他者から求められて撮ったものとはまた違う、素顔の石田さんに触れることができる作品集を今から楽しみにしている。
前編はこちらから
Text: NAOMI TANAKA
こちらの情報は『CYAN ISSUE 40 S/S 2024』に掲載された内容を再編集したものです。