身近に存在する「赤」という色と私たちの結びつき

赤にまつわる物語。ep1


赤が持つ個性

赤がもたらす多様なエネルギー

この世界は数多くの色で彩られている。季節の移り変わりを赤や黄に色づく紅葉からキャッチすることもあれば、雨上がりの7色の虹に引きつけられ、心が躍ることもある。映画『プラダを着た悪魔』のなかでは、ファッションに疎い主人公が、メリル・ストリープ演じる鬼編集長・ミランダにターコイズ、ラピス、セルリアンと青の違いを諭される印象的なシーンがある。日常のなかに無数の色が存在することによって、心に豊かさがもたらされ、さまざまなインフォメーションが届く。
そのなかでも赤は、エネルギーや華やかさ、積極性など、多くの印象をもたらす色だ。特別な日には赤リップを引きたくなるし、人が多いなかでも赤いワンピースを着た人に自然と視線が引き寄せられることもある。またある日は、赤いランジェリーで大人っぽい自分を演出することも。それは、赤が持つさまざまなエネルギーを感覚的に感じとっているからなのかもしれない。ハートマークやバラの花など、愛や情熱に結びつく色として用いられているのも赤である。

赤は今も昔も身近に存在する色

日本には古くから伝わる色彩が多くある。最も古く誕生した色とされるのは赤、黒、青、白の4色。「あか」はご来光などの「明かし」と同じ語源とされ、太陽が昇った「明るい」状態から生まれたと言われている。逆に「くろ」は、太陽が沈んだ状態の「暗い」「暮れる」が変化したとされ、「あお」は、はっきりとはわからない、覆われていてわからないという意味の「漠」や「淡い」から、「しろ」は、はっきりと見える意味の「知る」「しるし」から生まれたとされている。
そして、赤には生命力や情熱、神聖さを象徴する色とされ、儀式や高貴な衣装などに用いられてきた歴史がある。時代によっては、強さを誇示するための色として捉えられていた。現代においても、婚礼の義や、還暦の祝いなどの特別なシーンを彩る色でもあるし、日常的に目にするアイテムなどにも用いられており、馴染み深い色のひとつだ。

左から_赤(あか)、朱(しゅ)、緋(ひ)、紅(こう)

果実が色づくのは食べ頃のサイン

色は数え切れないほど存在しているが、私たちが認識できる色は限られている。色を認識するために必要な光の三原色が赤・緑・青で構成されているのは、人間の視覚がこの3色をもとにして色を認識し、さまざまな色を再現できる仕組みになっているから。赤+緑=黄色、赤+青=紫、赤+緑+青=白というように。そのなかでも赤は、視覚的に強く、認識されやすいことから目立つ色とされる。私たちの生活のなかにも目立つ赤の原理は採用されていて、危険を知らせる信号機や警報機、つまりシグナルレッドと言われる色として指定されている。
自然界にも同様に、目立つ赤の原理は存在している。例えば、果実が熟す過程では目立たない青や緑をしているのに、熟していくにつれ赤やオレンジへと色づいていく。これは食べ頃を教えるサインであり、鳥や動物たちに見つけてもらい、果肉を食べて種子をより遠くに運んでもらう目的があるとされている。赤は自然界の循環を構成する一端を担っているとも言えるのだ。

染色としての赤の歴史

ファッションやビューティにおいても、赤は欠かせない色のひとつだ。トレンドカラーはシーズンごとに変わっていきながらも、バーガンディやボルドー、えんじ……と、その時代や流行に合わせてさまざまな赤が登場してきた。そのために必要な染色には、主に繊維を染める染料と塗料や化粧品などに用いられる顔料がある。
染色の歴史は古く、紀元前数千年前から行われてきたとされている。当時は、主に植物や貝殻、昆虫などの天然素材が原料として用いられていたが、約160年前に化学染料が誕生したことで染色がより身近になった。そして、近年は、環境にやさしいとして天然染料が再び注目されている。特に赤は、紅花や茜、蘇芳など、植物由来の染料が多く、さらに浸し染めや手描き染めなど、さまざまな技法で染めの風合いを表現できることもファッションとしては必要なエッセンス。
一方、顔料は、古くは朱や鉛丹(えんたん)などの鉄鉱石や土などを原料とする天然顔料が一般的だったが、現代では合成タイプも豊富。だからこそ、アイシャドウやチークなどのさまざまなニュアンスの赤が叶えられ、そのなかから自分に似合うトーンを見つける楽しみを創造してくれている。

赤の天然染料として代表的な紅花には、実は紅色色素は約1%しか含まれていない。そのため、紅花で染められたものはとても高価で、限られた人しか身に着けることができなかった時代がある。現代では、衣類などのファッションアイテムだけではなく、リップの材料としても知られている。
赤の顔料は、お祝いなどの場で顔や身体に塗布したり、土器や土偶の色づけに使われたりと、古くから幅広いシーンで親しまれてきた。今も変わらず、ファッションやビューティにとどまらず、絵画、食器など、暮らしを彩るさまざまなアイテムで顔料の存在を感じられる。

Photography: KENICHI SUGIMORI
Edit & Text: YUKA ENOMOTO, MAKO UCHIDA
Text: k company

こちらの情報は『CYAN ISSUE 41 A/W 2024』に掲載された内容を再編集したものです。