
鳴海唯 これまでの“ナチュラル”な印象とは一味違う、少し攻めたスタイルで登場。
17 Oct 2025
『CYAN ISSUE 43 A/W 2025』の表紙を飾った鳴海唯へインタビュー。
CYAN 初出演から約4年。俳優 鳴海 唯がついに表紙を飾った。
うちに秘めた力強さ。『凛としたひと』今号のテーマが、彼女本来の姿にピタリと当てはまる。
主演映画『アフター・ザ・クエイク』への思い、役者としての変化と成長。その言葉に、今の鳴海 唯が詰まっている。
CYAN 初表紙おめでとうございます!4年越しのご縁が実を結び、念願の表紙です。
ありがとうございます。本当に嬉しいです。初めてCYAN に出演させていただいたのが2021年の秋。まだコロナ禍でしたね。あの時、事務所に来てもらってテスト撮影して……。美容誌に限らず、初めての撮影。雑誌に出演させていただいたのもCYANが初めてだったんです。
とはいえ5回目。お互い成長しましたね(笑)。
はい(笑)。事務所も変わり、当時と比べると活動の幅もすごく広がりました。そんな中でいきなり「表紙をお願いします」ってお話をいただいて。正直、すごく驚きました。「え、もう?」って(笑)。編集部からの温かい気持ちを感じて、本当に嬉しかったです。

CYANは鳴海さんにとってどんな存在ですか?
私にとってCYAN は“原点”のような存在です。ここからすべてが始まりましたし、出演させていただく度に“次はまた一段、成長した姿を見せたい”と思ってきました。だから、今回こうして表紙を飾らせていただけたことが本当に光栄で……感謝の気持ちでいっぱいです。
CYANでもそうですが、自然光だったり、ファニーな表情だったり、ナチュラルな印象で出演されることが多いと思います。今回は少しだけ攻めたスタイルの撮影になりましたね。
そうなんです。これまで私に求められてきたのは、どちらかというと“ナチュラル”な自分であることが多くて、世間的にもそういうイメージがあるのかなと思います。でも今回の撮影は、私の内面にある“本質的な部分”を表現できた気がしていて、とてもハマっていたなと感じています。
どんなポイントがハマったと思う?
普段のおちゃらけたり、自然体に見せている部分って、実はちょっとした照れ隠しだったのかもしれません。もちろんそれが悪いわけではないのですが、今回は眠っていた本来表現したい自分というか、内に秘めた強さだったり、芯のある部分を引き出してもらえたような感覚で、本当に夢のような時間でした。パキッとした照明、しっかり効かせたアイライン、印象的なヘアスタイル……。私は昔からそういうファッション誌の世界が大好きで、ずっと憧れをもっていたので、今回の撮影はとても特別な感じがしました。

仕上がりの写真を見たとき、どんな感想を持たれましたか?
実は今朝、鏡を見て「今日イケてないかも……」って少し不安だったんです。でも、仕上がりを見た瞬間、「これはもう完全にみんなの力だ!」って。皆さんが私を作品として引き出してくれたんだなと、まさに“チームでつくる美”の化学反応というか。すごく楽しくて、幸せな時間でした。
今号のCYANでは『凛としたひと』というテーマを掲げています。鳴海さんがその言葉にふさわしい方だと感じていて、今回のオファーとなりました。凛とした人と聞いて、鳴海さんはどんな人物を思い浮かべますか?
芯がぶれない人ですね。あとは、気取っていなくて自然体でいられる人。誰に対しても態度を変えない、フラットな姿勢を持っている人が“凛としている”と感じます。私自身、仕事をしていると「本来やりたかったことって何だっけ?」と迷う瞬間があります。そんなときに、ちゃんと原点に立ち戻れることって大事だなと思っていて。その姿勢を保ち続けている人には、本当にかっこよさを感じますし、凛としているなと思います。
前号の撮影(2月某日)時にもお話をお伺いしましたが、その後、今日まではお仕事の動き方や気持ちの変化はありましたか?
3月までは準備期間として比較的ゆっくりしていたのですが、4月以降は立て続けに撮影が入り、2ヶ月間ずっと現場に立っていました。これほど作品が重なる経験は初めてなのですが役や世界観が作品ごとに異なるので、その変化がとても楽しいですし、自分自身の成長を実感することができました。その分、毎日が必死です……。ちゃんとお仕事に応えたいという気持ちが強くなればなるほど、「時間が足りない!」って焦るような気持ちにもなってしまって。昔は無知だった分、勢いで飛び込めたことも、今は限られた時間の中で「どう立ち回ればいいのか?」と試行錯誤していて。今まさに、実験的に取り組んでいる感じですね。
役者としてのキャリアが多様になってきた中で、過去思い描いていた役者像と今の自分とでギャップはありますか?
役者を始めた頃は、いわゆるシンデレラストーリーに憧れていました。コンテストで注目されて、華やかにデビューする……そういう道を想像していて。実際、自分が10代でその道を歩めなかったことをコンプレックスに感じていた時期もありましたし。でも、時代が変わってスターの在り方も変わってきたと感じていて。みんなが観るもの、惹かれるもの自体が多様になって、それぞれの人にそれぞれのスターがいる時代になったと思っていて。だから今はあの頃みたいに“売れたい”とか“目立ちたい”って気持ちは少なくなってきているかなと。それよりも、“誰かの心に届く存在”になれたらいいなって思うようになりました。
素敵な考え方、そして素敵な変化ですね。
もちろん、同世代の役者さんを羨ましく思ったり、嫉妬したりすることは今でもあります。でもそういう気持ちにとらわれすぎず、少し気持ちが楽になってきました。これから出会ってくださる方にとって、自分が必要な存在になれたら。それが、私にとっての“役者としての幸せ”かもしれません。
役づくりへの姿勢も変わってきた?
はい。今年3月に参加した演技のワークショップで、理論で演技を教えてくれる先生と出会い。それまで感覚だけに頼っていた役づくりの仕方が大きく変わりました。正解が無い、感覚的なアプローチの中で悩んでいた私に、「限られた時間で何を取捨選択すればいいか」という視点を教えてくださって。その考えを取り入れるようになってから、不安や負担が軽くなったんです。もしその出会いがなければ、今のように作品が続く状況に、もしかしたら対応できなかったかもしれません。
その吸収力や探求心、強さですね。
今でも、主役を堂々と張れるほどの準備ができているとは思っていません。でも、少しずつ差を埋めてこれた気はしています。そして何より、自分ひとりでは作品は作ることができないんだという感覚が、この数年でようやく深く理解することができました。マネージャーさん、事務所の方、現場で関わってくださるすべての方々と一緒に作り上げるのが作品。自分はそのひとつのパーツにすぎない。だから、自分が関わる作品を通して、誰かの心に何かが届いたら。それが今の私にとっての一番の幸せかもしれません。

映画『アフター・ザ・クエイク』(10月3日公開)について教えてください。
本作は、村上春樹さんの短編集『神の子どもたちはみな踊る』を原作とした映画です。もともとはNHKで放送されたオムニバスドラマを再編集したもので、1995年の阪神・淡路大震災の“直接の被災地”ではなく、“遠く離れた場所で震災の影響を受けた人々”の喪失感と再生を描いた物語です。
震災から30年の節目に、この作品に出演することへの思いは?
私は震災後に生まれた世代ですが、母や祖母が被災者で、当時の話を聞く機会も多かったです。実は、私が出演したエピソードの3人のキャスト全員が兵庫県出身なんです。震災については学校でも深く学んできたので、自然と自分ごととして作品に向き合えた気がします。
演じた“家出少女・純子”という役との出会いについて教えてください。
はじめにプロデューサーの方から「いつか主演を任せたいと思っていた」と言っていただいたことがとても印象的でした。その信頼が嬉しかった反面、村上春樹さん原作ということでプレッシャーも感じました。だからこそ、これまで以上に気を引き締めて現場に臨みました。
純子というキャラクターにはどんな印象を持ちましたか?
純子は家出少女という設定で、自分とは行動パターンが全く違うので、共感できる部分とそうでない部分が正直ありました。でも、堤真一さん演じる三宅と出会って、焚き火の前で自分の孤独を語るシーンがあるのですが、そこはしっかり共感できたんです。“人は誰しも孤独を抱えている”という演出に、強く頷くことができました。
演じる中で、ご自身の中にある孤独と重ねるような瞬間はありましたか?
私は孤独を感じたときに、「この気持ちはいつか表現に活かせる」と考えるようにしています。これは職業病かもしれないのですが、そう思えば、乗り越えられる。純子のように、何かや誰かでその寂しさを埋めようとすることもあるけれど、本当に深いところ、本当の孤独って、きっと簡単には埋まらないと思うんです。
プロデューサーからは「行方不明者の声なき声を拾いたい」という意図も語られていたそうですね。
はい。社会の中で静かに忘れられていくような、“名もなき人たち”に光を当てたいという思いには、私自身も深く共感しました。物語に登場するのは、家出少女や警備員、どこにでもいる夫婦など、日常に埋もれがちな存在ばかり。でもだからこそ、彼らの抱える孤独や葛藤が胸に迫るんだと思います。ラストの受け取り方も人それぞれで、“希望”と感じる方もいれば、“不穏さ”を感じる方もいるはず。それぞれの人生に、そっと寄り添ってくれる作品になったと思います。
Photography:YUYA SHIMAHARA (UM)
Hair & Makeup : KYOHEI SASAMOTO (ilumini)
Styling : NATSUKI TAKANO (HITOME)
Model:YUI NARUMI
Interview:TEPPEI IKEDA
Edit & Text:SATORU SUZUKI (CYAN)
こちらの情報は『CYAN ISSUE 43 A/W 2025』に掲載されたものです。