「一日一日を充実させる洋服を」。〈TODAYFUL〉ディレクター・吉田怜香がブランドに込めた想いとは 後編
12 May 2024
記憶を辿り自らの言葉で語る。クリエイターのこれまでとこれから。
オリジナルファッションブランドやライフスタイルショップを手掛けるディレクター・吉田怜香さんにインタビュー。アパレル業界に踏み込んだきっかけからブランド立ち上げに至るまでの経緯、大切にし続けている想いや信念など、前後編に分けてたっぷりお届け。前編はこちらから
“本当にやりたいこと”に素直になること
ここから吉田さんの本格的なアパレル業界での旅がスタートする。
「当時のトレンドみたいなものでもあったと思うのですが、東京では読者モデルを経て芸能事務所に入ったりモデルや歌手になるというのが多かった印象で、関西では洋服やアクセサリーのブランドを出すというのが多かった。ちょうど私も知り合いの方からブランドをやってみないかと声をかけていただいて。私は大学の就職活動の時期も、セレクトショップでのバイトが楽しかったから、このままアパレルの仕事を続けようと決めていたし、それが自分にとっていちばんしっくりくる選択だったので悩んだりもしなかった。むしろ就活で髪を黒く染めないといけないなんて考えられないって。それに対してアパレルの仕事は、センスを磨いて、自分の好きな髪型、メイク、ファッションで可愛くすればするほど評価してもらえるんだから最高だなって感覚でした。さらに好きな服に囲まれて、お客様も可愛くなるように一緒に服を選べるなんて、私にとってはむしろお金をもらえなくてもしたいくらいのことだったから。でも、自分のお店を持つとか、自分のブランドを出すとか、そんな大それたことは全然考えたことがなかったんです。」
声がかかったことでそういった選択肢もあるのだと初めて意識した頃、コンビニで雑誌を立ち読みしていた吉田さんの目にとある情報が飛び込んでくる。それは、雑誌『JJ』が主催していた『おしゃPオーディション』という新ブランドのプロデューサーになるチャンスが巡ってくるというものだった。
「仕事の帰り道に寄ったコンビニで、フラっとその誌面を見て、やるならこっちかも!と直感的に思ったんですよ。すでに有名なブランドをいくつも持っている会社だったこともあって……。まずは、それまで少しずつ話を進めてくださっていた、声をかけてくれた会社の方に、ありがたいお話だけれど気持ちが揺れてしまったから、一度こっちに挑戦してみたいと、そのままの自分の気持ちを伝えて相談しました。そういうことなら応援するよと言ってくださって、のちに受かった時も喜んでくださって。今でも感謝しています。人生で何か選択に迷ったり、大事な場面こそ、誤魔化さずに誠実に向き合うことがいちばん大事だし、そうすることで相手に理解してもらえることも増えると感じられました。」
こうして自身の決断力と周囲の理解もあり、見事チャンスを勝ち取ることに成功。ディレクターとしてUngridというブランドを立ち上げることとなる。ただ、現実は理想通りとはいかなかった。
「当時23歳。まだまだ若くて無知だったんですよね。当時の私は、自分のブランドができるということはブランドにまつわるあらゆることの選択肢は自分にあると思っていました。でも実際は、大きな会社だったからこそ、しっかり組織的な枠組みのもと、決定事項が自分に降りてくることのほうが多かった。ありがたいことに次々と各ファッションビルへの出店が決まるんですが、私はずっと路面店のセレクトショップが好きで働いていたから、自分の店も、路面店のイメージしかしていなかったんですよね。メイクが濃くて外見はギャルっぽくても、ファッションビルになじみがなかったんです。当時の会社の方々からすれば、オーディションを受けたくせに、理解し難い奴だったと思います。何がそんなに嫌なの?って。ブランドが大きくなっていくことはありがたいことだけど、肝心の自分は喜べない、気持ちが追いつかない2年間だったように思います。そういう自分の悩みやジレンマを日々知ってくれていた当時の仲間が、そこまでやりたいことがあるなら違う会社でやってみようかと提案してくれて、ようやくTODAYFULがスタートすることとなります」
「変わってもいい」こそ変わらない信念
いつ、どんな時も自分に正直である吉田さんのまっすぐな思いが、ついに実を結ぶのは、2013年のこと。売れるものを作ることが正義とされがちな大手アパレル企業では難しいことも、彼女自身のブランドでならば心強い武器となる。
「いつも変わらずに、自分が半年後に着たいと思えるような服を作ること。逆にそれ以外のモチベーションで服を作ったことがないんです。誰かにこういうのが売れるから作ってくれ、と言われて作ったことはありません。自分基準で、これがいい、自分も着たい、これを着たらお客様も可愛くなると思う、と自信を持って思えるものを作ってきています。トレンドはさほど意識しないけど、全く無視するつもりもない。その時々の世の中のムードを柔軟にキャッチして反映するスキルも絶対に必要だと思うので。デニムひとつとっても、ずっとハイウエストだったけど、最近久しぶりにローも可愛いよね、みたいなムードを敏感に感じ取って、お客様にも常に新鮮な可愛いを提案したいし、シェアしたい」
こういうテイストのブランドだから、こういうものを作り、こういうものは作らないなどといった、決まりきった約束事がブランド自体にないこと。吉田さんの人柄そのままであるような、自身と時代のムードに素直であることがTODAYFULというブランドの世界観そのものであるのだろう。
「もちろん、自分の中でのブランドの世界観の軸が大前提としてあるので、突拍子もない変化はないですが、ある程度柔軟に変化していけるというのは、TODAYFULの強みでもあるでしょうね。代官山の店舗も10年前にオープンしたときは温かみのあるウッディなテイストだったけど、5年前の改装で今のようなもう少しソリッドなムードにしました。時代のムードの変化もあるし、自分自身も日々センスを磨きたくていろんな場所へ足を運び、いろんなものを吸収していくなかで、頑なにならずに、柔軟に反映させていきましょうという雰囲気だから今がある。そろそろ5年経つので、また少し店の雰囲気も変えてみたいですね。ここ3~4年は、洋服やセレクトしている雑貨だけに限らず、器やアートやオブジェ、食品に至るまで、たくさんの作家さんやアーティスト、リスペクトするショップの方々と2~3ヶ月に1度ぐらいのペースで取り組みを行なっています。ファッションという側面だけでなく、自分たちがかっこいいい、面白い、と思えるカルチャーやプロダクトをLife’sを通してシェアすることで、ショップとしても奥行きが出て、お客さまの日常が豊かになるきっかけが作れたら嬉しいな、と思っています」
抜け感と自由さそして初心を忘れない
「TODAYFULの提案するスタイルには、引き算の美学が反映されていると思います。程よい抜け感も人それぞれの魅力になると考えているので、そのあたりは意識しているし、自分でも定期的に見返しています。洋服のバランスだけでなく、ヘアもメイクも含めて全身を引きで捉えることが大事。パーツだけを見てそれぞれ完璧に仕上げてしまうとトゥーマッチになる。隙があった方がいいと思います。かっちりしたジャケットには逆にすっぴんぐらいがいいんじゃない?とか。人柄や内面としても、自立しているけど、抜け感があって無理していない人でありたい。最近YouTubeでよく拝見している、YOUさんみたいな歳のとり方に憧れます。何歳になっても、縛られることなく自由でいたい。私自身、今3歳の娘がいるので、心地いい育児と仕事、そして自由であることのバランスを探ってくのは、今後の人生での課題でもあります」
母として娘に惜しみない愛情を注ぎながらも、良きバランスを追求しながら自分のライスタイルを築き上げる姿は、充足感に溢れていて、いつの時代も私たちの憧れであり続ける。
「私自身の経験上、好きなことを仕事にできたら最高!というタイプなのですが、もちろん別の考えを持つ方もいるだろうし、正解はないかと。私は、ショップ店員の頃から変わらず、お給料をもらわなくてもやりたいことの延長をずっとやらせてもらっている感覚で、本当に運がよかった。自分のセンスを磨けるこの場所に居られることがとても心地いい。私にとっては昔から、頑張らずともできること、ってイメージかも。こうしたら可愛い、という感覚がなんとなく自分の中にすでにあって、息をするようにスタイリングが組める。好きなことであり、得意なことなのかも。10年以上ディレクター業はしているけれど、私はデザイナーとしての業務をメインにやっているタイプ。デザインについての知識はとても増えたし、服を作るコツみたいなものは身についてきた。だけど、長くこの業界にいるからこそ、何もわからなかった頃のときめきみたいなものも大事になってくるんだと思います。服作りはもちろん、店舗での企画などを考える時も、業界目線の視点しかなかったり、お客様との距離感を無視したり。そういう人にはなりたくない。なんでもない日常をブログに綴っていた頃の親近感がきっと私自身の良さであると思っているから、その気持ちは忘れちゃダメだと思っている。業界に響くものを作るのではなく、お客様目線でモノ作りすることは忘れなくないし、直感の可愛い!という感覚も大切にすべきだなといつも思っています」
吉田さん自身が可愛いものに囲まれることに喜びを感じ、そしてそのオーラが洋服を手に取ったり、店舗を訪れる私たちの日々までをも満ち足りたものへと導いてくれる。この“TODAYFUL”な連鎖がずっと続いていくことを願うのだ。
前編はこちらから
吉田怜香
1987年、兵庫県生まれ。オリジナルブランド『TODAYFUL』兼ライフスタイルショップ『Life’s』ディレクター。オンラインコミュニティサロン『Ours.』主催。ファッションだけでなく、ビューティやライフスタイルについての洗練された情報やセンスに溢れた発信が支持を集める。
Text: TOKO TOGASHI
こちらの情報は『CYAN ISSUE 40 S/S 2024』に掲載された内容を再編集したものです。